名門をゆく/吉澤織物

全国屈指の織りと染めの二刀流
伝統を守り、革新に挑む

新潟県十日町市の吉澤織物。十日町明石縮(明石縮)と十日町友禅の織物や友禅の制作を一貫生産している総合メーカー

十日町明石縮で知られる織物の産地として1500年にも及ぶ歴史をもつ新潟県十日町。日本屈指の豪雪地、かつ盆地特有の多湿地帯であるこの地域は、実は織物産業にとって最適な環境が揃った理想の地。江戸時代末期に出版された、越後魚沼の雪国の生活を活写した書籍「北越雪譜」にも、
”雪中に糸をなし、雪中に織り、雪水に洒ぎ、雪上に曝す。
雪ありて縮あり。されば越後縮は雪と人と気力相半して名産の名あり。
魚沼郡の雪は縮の親といふべし”
と、記されている通り、十日町の織物は雪によって生み出された名産なのです。

そこで今回の『名門をゆく』は、十日町で270余年、織物を家業とし、伝統の継承と技術の革新を追求している <吉澤織物>をご紹介します。「十日町きものフェスタ」で十日町友禅の振袖が7年連続で経済産業大臣賞を受賞するなど、全国でも有数の織りと染めの総合メーカーとしてトップを走り続けるその魅力に迫ります。

十日町で長き歴史をもつ吉澤織物

吉澤織物の創業は1897年。しかし吉澤家は、それ以前の江戸時代中期・宝暦年間から越後の特産物である麻織物の一種「越後縮」の生産に携わってきた歴史があります。二代目・吉澤与市により「越後縮」が本格的に創作されると、吉澤織物は大きく発展していきました。私たちが小売店で目にする吉澤織物の代表的なブランド「七代目吉澤与市」とは現会長であり、現在の代表取締役の吉澤武彦氏は八代目。吉澤織物は、長い歴史の中で十日町の織物文化を受け継いできました。

そんな吉澤織物の礎を築いたのが「十日町明石ちぢみ」の開発です。”蝉の翅”とたとえられ、「着たら放せぬ味の良さ」とも唄われた「十日町明石ちぢみ」は、涼やかで軽やかな着心地に魅せられる夏着物です。「明石ちぢみ」はその名の通り、兵庫県明石地方がはじまりで、京都の西陣を経由して十日町に伝わりました。1887年頃、新潟県柏崎街の越後縮の問屋業者が、西陣より湿度が高く、越後縮以来の強撚の技術をもっている十日町の方が織るのに適していると考え、裂見本を持ち帰り、十日町の機業家と職人たちが研究をすすめたのが始まりといわれています。完成するまでに30年もの歳月がかかりましたが、1917年頃ついに商品化。その後も蒸絨加工や防水加工で改良を重ね、1934年に高級夏着尺として確立し、全国に名を馳せました。

新潟県十日町市の吉澤織物。十日町明石縮(明石縮)と十日町友禅の織物や友禅の制作を一貫生産している総合メーカー
新潟県十日町市の吉澤織物。十日町明石縮(明石縮)と十日町友禅の織物や友禅の制作を一貫生産している総合メーカー

十日町の織物として主力商品となった「十日町明石ちぢみ」でしたが、夏物ゆえ製織時期は冬の期間だけ。そこで、通年で勝負できる商品の研究・開発が進められました。

ピンチはチャンス。
機転から生まれた黒羽織が大ヒット

1963年、現会長の七代目が着物業界に一大ムーブメントを起こす商品を発表しました。それが、年間生産量110万着を超え、20年にもおよぶロングセラー商品となった黒羽織の開発でした。実は、このヒットの裏には難題に直面した際の七代目の機転にありました。当時、市場では明るい色合いの美しい羽織が流行し、吉澤織物も開発に注力。しかし、経糸を整える「整経」のトラブルで生地にわずかな筋目が表れ、色ムラが生じることが判明しました。そこで、色ムラを目立たせないよう、大胆にも黒く染色。丈を短くした略式の礼装用の黒羽織として商品化すると、学校の入学式や卒業式で母親がこぞって身に纏い、”PTAルック”と称され、黒羽織は空前の大ブームとなりました。

新潟県十日町市の吉澤織物。十日町明石縮(明石縮)と十日町友禅の織物や友禅の制作を一貫生産している総合メーカー

織物と友禅。二刀流を極めるあくなき挑戦

日本の高度経済成長を象徴するかのように開催された1964年の東京オリンピック。開催期間中、オリンピックの放送を見た国民は97.3%にものぼり、誕生したばかりのカラーテレビには、表彰式に登場する美しい振袖をまとったコンパニオンの姿も映し出されました。
「これからの時代は華やかさが求められる」。織りの着物で発展してきた吉澤織物でしたが、1965年に未知なる領域の友禅染に着手します。友禅染は、京都で江戸時代から伝承され、確立されている染技術。材料も染料も独学という、まさにゼロからの開発は無謀にも思えましたが、雅やかな品格の表現に見事成功し、付け下げ、振袖を展開していきました。また、京友禅がそれぞれを専門の職人が担当する「分業制」であるのに対し、吉澤織物では、織りと同様に一貫生産をとることを強みとし、デザインから手描き、型友禅、引染などの全工程を社内で行っているのも大きな特徴です。

新潟県十日町市の吉澤織物。十日町明石縮(明石縮)と十日町友禅の織物や友禅の制作を一貫生産している総合メーカー

伝統を守りながらも、
新しいものを取り入れる姿勢

吉澤織物が理念に掲げるのは『不易流行』。これは、松尾芭蕉が示した俳諧の理念で、いつまでも変わらないことを指す「不易」と、時代に応じて変化することを示す「流行」という相反する概念がひとつになった言葉です。吉澤織物では、創業以来受け継がれてきた伝統と歴史を重んじながらも、伝統の古典美に尽きることのない創意を加え、洗練された美しい着物を創作し続けています。
さらに、若い世代の育成も力を入れ、「十日町明石ちぢみ」の伝統工芸士として30代も活躍。フレッシュな感性の意匠が生み出されています。
十日町の風土に根ざし、発展した織物と果敢な挑戦で生み出された友禅。悠久の歴史の中で培われた伝統産業において『不易流行』の精神で紡いでいく作品は、これからも私たち着物ファンを楽しませてくれるでしょう。

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吉澤織物株式会社
新潟県十日町市本町1丁目686番地
025-752-4131(代表)
WEBサイトはこちら>>
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