伝統工芸探訪 第1回 十日町明石ちぢみ

産地/新潟県十日町市

新潟県の十日町明石ちぢみ(明石縮)。「蝉の翅」と喩えられるほどの軽やかさで、初夏、盛夏、残暑で楽しむことができる着心地。吉澤織物

さらっとしたシボを備えた涼やかな地風と上品な透け感。暑さを感じる季節になると纏いたくなるのが「十日町明石ちぢみ」です。「蝉の翅」と喩えられるほどの軽やかさで、初夏、盛夏、残暑で楽しむことができる着心地。盛夏に活躍してくれる麻着物や夏紬、浴衣など色々ありますが、「十日町明石ちぢみ」には絹ならではの光沢と身体に沿ってシルエットを美しく見せる魅力があります。夏だからこそ、颯爽と。「十日町明石ちぢみ」は、照りつける日差しの中で輝く、凛とした着姿を叶えてくれるでしょう。

そこで今回の探訪先は、「十日町明石ちぢみ」の発祥の地である新潟県十日町市。雪国・十日町では、織物の技術が磨かれ栄えた歴史があり、江戸時代には越後の麻織物がつくられ、それらは越後上布や本塩沢へと発展しました。ではなぜ、名称に「明石」とついているものが、新潟県の十日町で織られているのでしょうか?

新潟県の十日町明石ちぢみ(明石縮)。「蝉の翅」と喩えられるほどの軽やかさで、初夏、盛夏、残暑で楽しむことができる着心地。吉澤織物

「十日町明石ちぢみ」の誕生背景

明治時代になると、十日町では、麻の縮から絹の縮へと変革を進め、1887年頃に「十日町明石ちぢみ」の開発が本格的に始まりました。そして、試行錯誤の末、1894年頃に製品として晴れて市場デビュー。けれど残念ながら当初の需要は多くありませんでした。そこで、蒸絨加工により「濡れると縮む」という欠点を克服。さらに防水加工の発明によって「玉の汗にも縮まぬ明石」というキャッチフレーズで、高級夏着尺の地位を確立し大躍進を見せます。改良と努力が実り、大正年間の生産点数は3万反から15万反へと急成長し、1929年にコマーシャルソング「十日町小唄」が作られると、日本中の女性が憧れる美しい絹の縮として人気が高まり、流行の最先端となりました。

しかし、戦争中の統制経済により、戦後は生産数が激減しました。そこで、1897年に「十日町明石ちぢみ」を創業した『吉澤織物』が1970年代後半に復刻させると、たちまちその人気が再燃。現在、同社では年間に多くの「十日町明石ちぢみ」が織られ、夏着物の代名詞として人気を博しています。

新潟県の十日町明石ちぢみ(明石縮)。「蝉の翅」と喩えられるほどの軽やかさで、初夏、盛夏、残暑で楽しむことができる着心地。吉澤織物

約4,000回の撚りをかけた最高級糸

「十日町明石ちぢみ」の特色は、ちぢみ独特のしぼ(波状のしわ)を出すために、緯糸に強い撚(よ)りをかける点にあります。八丁撚糸機により、27デニールの糸に1mあたり約4,000回の撚りをかけて髪の毛のように細い糸に仕上げます。撚りの回数は織物によって異なりますが、平均1mあたり約3,000回、縮緬の場合は3,500回程度なので、その度合いの強さがよく分かります。

ゆえに、かすかな不純物が混ざっているだけで織りむらが起きてしまうため、繭の最初や最後の方の糸は使わず、不純物の少ない真ん中の最高級の糸を原料にしないと作れないという贅沢な織物なのです。

新潟県の十日町明石ちぢみ(明石縮)。「蝉の翅」と喩えられるほどの軽やかさで、初夏、盛夏、残暑で楽しむことができる着心地。吉澤織物

職人の技術の粋を集めた織物

作業は大きく分けて、設計、撚糸、手延べ、墨付け・くびり、摺込み・染色、糊付け・上撚り、織り、仕上げの8つの工程を経て完成します。糸染め、絣、巻き、織りなど、それぞれの工程においても薄物ゆえに、通常の織物以上の技術や集中力・責任感が必要とされます。

染色された10数メートルの糸は、設計図に基づき、経糸と緯糸にそれぞれ必要な糸を一本一本捻じれないよう、長さと本数を揃える「手延べ」という作業が行われます。経糸は機織り機の部品の一部「筬(おさ)」に通していきます。これらは、すべて手作業で行われ、まさに職人技ともいえる華麗な糸さばきで整えていきます。あらゆる準備が整うと、設計図に沿って織っていきます。

「十日町明石ちぢみ」の特徴は、2,246本の経糸を使い(通常の紬は1,200本)、右撚り、左撚りを交互に織っていくことにあります。柄ゆきには、段暈かし、矢羽根、市松文様などバリエーションが豊富で、吉澤織物では、生地の経糸が左右によろけて波状に織る筬波織(おさなみおり)の技術を加えたデザインも生産しています。「十日町明石ちぢみ」は、柄ごとに染色された糸を織っていくため、とても難しい作業といわれています。そのため、糸からひとつの柄を織り上げるのに、2ヶ月から3ヶ月、柄によっては半年かかる場合もあるそうです。

新潟県の十日町明石ちぢみ(明石縮)。「蝉の翅」と喩えられるほどの軽やかさで、初夏、盛夏、残暑で楽しむことができる着心地。吉澤織物

吉澤織物の工房にある織機は、約50年も「十日町明石ちぢみ」を織り続けてきた歴史あるもの。湿度が高い雪国は、糸を紡ぎ、撚る作業には適していますが、織機にとっては湿度は天敵。この相異なる条件をもつ2つの要素の調和をはかるため、現場では温度・湿度管理が徹底されています。

新潟県の十日町明石ちぢみ(明石縮)。「蝉の翅」と喩えられるほどの軽やかさで、初夏、盛夏、残暑で楽しむことができる着心地。吉澤織物

着物愛好家の夏に寄り添う伝統的工芸品

最後の工程「湯もみ」によって出される波状のしわ「シボ」。これこそ、肌の上で軽やかに舞う「十日町明石ちぢみ」最大の特徴であり、透明感と風通しのよさに魅せられる夏にふさわしい着物といえます。

1982年に国の伝統的工芸品に指定された「十日町明石ちぢみ」。伝統的な柄を大切に継承しながら、現代的にアレンジしたデザインも織られ、時代とニーズに合わせて、着物愛好家の夏に寄り添っています。地球温暖化により年々暑さが増し、4月でも汗ばむほど。きっと今後、1年における明石ちぢみの出番は増えてくるでしょう。「十日町明石ちぢみ」で、快適な着物ライフをお楽しみください。

新潟県の十日町明石ちぢみ(明石縮)。「蝉の翅」と喩えられるほどの軽やかさで、初夏、盛夏、残暑で楽しむことができる着心地。吉澤織物

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取材協力/吉澤織物株式会社
新潟県十日町市本町1丁目686番地
025-752-4131(代表)
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