米沢織の魅力大解剖 vol.2『佐志め織物』

卓越した技術で織りなす
ジャカード織機で魅せる意匠美

佐志め織物での織の風景

雨コート専門の織屋から発展した佐志め織物 
糸、組織、織への徹底したこだわり

日本海に面した山形県。多雨多湿で、山の周辺は豪雪地となる気候特性をもちます。そのためか、米沢では雨コートが盛んに織られていました。かつて40軒以上もの織屋さんで雨コートが織られていましたが、現在は1軒のみ。それが、今回ご紹介する「佐志め織物」です。四代目を継ぐ、佐藤亨定さんにお話をお伺いしました。

五百機衣を手がける佐志め織物の外観。

「佐志め織物」の誕生は1924年(大正13年)。亨定さんのご曾祖母様・佐藤志めさんによって創業されました。大正の時代において、女性が代表を務める織屋さんというから驚きです。2000年にブランド名として商標登録した「五百機織(いおはたおり)」という名称は、七夕の伝説に登場する織姫が織ったといわれる「五百機衣(いおはたごろも)」から付けられました。織姫が織ったと伝わる想像上の美しい衣に想いを馳せ、丁寧に織り続ける決意をこの名称に込めたといいます。

五百機衣の着物と帯

「佐志め織物」は、雨コート専門の織屋として長い歴史をもち、細い糸を使った繻子織の商品は、全国で人気を集めました。当時、和装雨コートというと、色は朱色や黒赤色が代表的で、柄は縦や幾何学文様が多く、今では“昭和レトロ”と称されるデザインが主流でした。そんな中、「佐志め織物」では、ジャカード織機で繊細な文様を表現し、画期的な意匠と特徴的な織が美しい着物や帯、そして機能性を兼ね備えた晴雨兼用の和装コートを生み出してきました。

佐志め織物の内観

「佐志め織物」の大きな特徴は、先染めの絹糸を使い、ジャカード織機の紋織で繊細な表現をしている点です。ジャカード織機は、織り手の卓越した技術がなければ操ることができないアナログな織機。デジタル技術が発達し、コンピューターグラフィックスで製紋したデータを使っている織屋さんも多くある中で、「佐志め織物」は今なお紋紙を使って製織しています。柄数が多いと、2,000枚以上もの紋紙を使用することもあるそうですが、それでも昔ながらの技法は変えず、工夫をした組織で表現していくことを大事にしているといいます。

4,000本の経糸で織りなす
驚異の高密度生地「天平錦」

「佐志め織物」が主力商品のひとつとして展開しているのが晴雨兼用のコート地「天平錦」です。糸の目が詰まった高密度な生地でありながら、1反約500gという軽さ。それを可能にしているのが経糸・緯糸ともに、髪の毛よりも細い生糸を使用した織の組織にあります。経糸に約4,000本もの絹糸を張って、しっかり織り上げることで密度が増すため、目の粗い生地と比べ、撥水加工の効果が高まるのです。

佐志め織物の晴雨兼用のコート地「天平錦」の糸

ちなみに、雨に強いといわれている大島紬の9マルキで経糸が約1,200本、12マルキで約1,400本なので、4,000という数字がどれだけ密度が高いものなのか想像いただけるかと思います。高密度ゆえ風や雨を通さないため、単衣で仕立て、春・秋・冬と3シーズンで着用される方が多いとか。そして晴雨兼用なので、外出先で突然雨が止み、晴れてきても、持て余すことなく、おしゃれコート感覚で堂々と楽しめる意匠にも特徴があります。「天平錦」は、その名の通り、正倉院文様にある格調高い柄を、上質な糸がもつ本来の光沢を最大限に活かして織で表現しています。そのため、小紋はもちろん、訪問着、さらには留袖の上からでも重ねることができるフォーマル感があるのも魅力です。

佐志め織物の晴雨兼用のコート地「天平錦」のラインナップ


「従来の雨コートのデザインとは一線を画するデザインにもこだわりましたが、それ以上に着やすさを追求しました。経糸・緯糸ともに細いので、生地に厚みがなく、対丈で作っても、小さくたたむことができます。復元性があるので、長時間畳んで置いておいても、シワになりにくいです。今は、この技術を活かして、着物や帯などの商品の制作を進めています」。

織の可能性を広げるため
江戸小紋を織で表現
した五百機織

江戸小紋といえば、型染めで染め上げる技法で、遠目には無地に見えるほど、ごく小さな柄が規則正しく並んでいるのが特徴です。こちらの画像の鮫小紋。

佐志め織物が手がける夏着物「なつきぬ」

実は、織で表現されています。細い糸を使う技術はコートだけでなく、着物にも反映。経糸の本数は、普通幅で紬の3倍にあたる約4,000本で、大変複雑な紋織の技法で細やかな文様を織り上げています。

緯糸は、経糸に対して倍以上強く撚りをかけた独自の強撚糸を使用しているので、生地の風合は、織の着物だけれどもしなやか。引っ張ると糸自体が伸び縮みするほどの弾力をもちます。伸ばしても戻ろうとする力が働くため、シワになりにくく、しかも湿気に強いため、縮まないという特性をもちます。

変わり撚糸で軽さを追求
絽でも紗でもない夏着物

地球温暖化を含む気候変動により、着物の暦も大きく変化してきています。お茶席など厳しいしきたりがある場所でないかぎり、気温による体感で切り替えていくことが推奨されています。そこで生まれたのが、春先から秋の終わりまで“暑い”と感じたら纏うことができる「なつきぬ」という着物です。

「夏本番を前に、気温が30度を記録することも増えてきている中、単衣時期にも快適に過ごしていただくことができるよう透け感のある生地を考案しました」と、佐藤さんが取り出したのは、これまたエアリーな薄手の生地の反物。さらっとした独特な風合で、1枚で見ると透けていますが、襦袢に重ねると透け感がなくなります。

「絽や紗ですと盛夏のお着物になりますが、『なつきぬ』は1年において、長い期間楽しんでいただけるよう生地の開発に努めました。特徴は糸にあり、撚りのかけ方に変化をつけています。糸自体に凹凸感があることから、肌に当たっても快適で、サラサラした風合を特徴としています」。

さらに、薄羽織の生地「うすきぬ」も展開。こちらは、真冬以外に着ることができる万能な上物です。薄物コートというと紋紗が主流ですが、あえて織が難しいとされる無地場が活きる生地に挑戦し、経糸でさりげないアクセントをつけています。

佐志め織物が手がける夏着物「うすきぬ」はコートにも適している

培ってきた技術を活かし
新しいモノづくりに挑戦

代々受け継いできた技法を活かし、時代の変化に合わせた商品を開発してきた「佐志め織物」。帯にも定評があり、経糸3,000本で織り上げ、糸本来のまばゆい光沢が映える更紗文様の帯や、緯糸に手引き真綿を使い、独自の糸使いで古典柄の苺錦文を表現したほっこり温かい風合の帯などを展開。さらに、裏地も同じ糸質にて自社で織っているので、表地とのそいが良く、締め心地も優れています。

佐志め織物の帯

挑戦を続ける佐藤さんが現在進行形で取り組んでいるのが、盛夏に楽しむ紗の組織を使った夏帯です。夏帯を織るための機の仕掛けは以前から着手されていたそうですが、使用する糸の選定、そして織り方を思考錯誤されているといいます。

「試験的に第1号を織った際、打ち込みの弱さを感じたので、強くして緯糸もかなり太くしたところ、風合は良いのですが少し重たくなりました。バランスを考え直して、頭の中に描いている構想に近づけるよう試作を続けています」。

四代目を継ぐ、佐藤亨定さん

積み重ねる努力の根底には、着心地のいい着物・帯、そしてコートを生み出したいという佐藤さんの熱い想いがあります。織姫が天の川で心を込めて美しい衣を織ったように、佐藤さんたちもまた、着物を纏う方々の喜びを願いながら、丁寧に、そして堅実に、素晴らしい生地を織り続けていかれることでしょう。

関連記事:「日本の染め・織り事典/米沢織・米沢紬(山形県)」
関連記事:「米沢織の魅力大解剖 vol.1/新田」


取材協力/佐志め織物
山形県米沢市本町2-1-9
TEL:0238-23-0788

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