世界に誇る美の逸品 vol.3『伊と幸』<京都>

純国産絹への想いと
時代の感性に呼応した図案
「伊と幸」という気品を纏う

伊と幸の着物

日本屈指の白生地メーカー「伊と幸」。1931年に創業し、これまでに200種類以上の白生地と、3,000種を超える柄を生み出してきました。後染め生地として、皇室でも採用される京都の名門です。純国産絹にこだわり、養蚕、製糸、製織、染めにいたるまで、各分野で卓越した技術をもつ職人とともに“伊と幸”ブランドの価値を大切に守り続けています。純国産絹への想いやデザインなど、美しい白生地を創出する背景や絹織物の新しい展開について、三代目を継ぐ代表取締役社長の北川幸さんにお話をお伺いしました。

純国産の絹にこだわり
日本文化である着物を守る

繭から作られる絹織物。長襦袢から帯まで、着物一揃いに要する繭量は約1万粒といわれ、それだけの蚕を育てるためには70坪の桑園と330kgもの桑の葉が必要になります。かつて、日本の近代化の過程において主要産業であった養蚕業。明治42年(1909年)には、生糸の輸出量が世界一を記録しましたが、ピーク時には全国で220万件あった養蚕農家は、今では180件程度に激減。その背景には需要の乏しさがあるといいます。純国産生糸が、国内の絹製品流通量のわずか0.5%という中、輸入糸に頼らざるを得ない現状であっても、「伊と幸」は繭生産から”純日本”の絹を守り続けています。

伊と幸の松岡姫

1996年に先代のお父様の努力で誕生した、繭・生糸から白生地までの日本初の統一ブランド「松岡姫」。日本の文化としての着物こそ、日本の風土で育まれた糸で織り上げることが最もふさわしいという考えで取り組まれました。「松岡姫」は、弾力性と優れた光沢をもつ山形県庄内藩発祥の優良蚕品種を原料に、福島県の養蚕農家で大切に育てられています。北川さんは、その想いを受け継ぎ、繊細でしなやかな風合いをもつ「松岡姫」の発展に尽力されています。

「日本の良質な繭を守るということはもちろん、私の中では、着物という日本文化の集大成を守るという社会的意義が大きいです」と、北川さん。

「残念ながら、着物の原材料の大半を輸入に依存している状況を知っている方は少ないと思います。そういった中で私たちは、少しでも国内での原材料の生産を残していきたいという気概をもって取り組んでいます。そのためには、養蚕農家を守り、国内の製糸業を守り、着物を織ってくださる人たちを守っていくことが大切です。ゼロになってしまうと“1”は作れません。しかし、“1”があれば、“2” そして“3”へと広げることができる可能性があると信じています」。

日本画の精神が宿る
繊細な紋意匠こそ「伊と幸」らしさ

創業者の伊藤幸治郎氏は日本画家で、画号は「幸山」と称されていました。「日本画の絵心を地紋にして織り込みたい」という想いから、自作の紋図を製織・販売する事業を興します。幸治郎氏が図案を描く上で大事にしていたこと。それは、日本画特有の筆先の流れでした。

伊と幸の美しい白生地。

現在、図案室の主任を務める廣田真理子さんも高校、大学で日本画を専攻された人物。瑞々しい感性で描き出される図案は、次々と大ヒットし、トレンドメーカーとして「伊と幸」で活躍されています。例えば、セミフォーマル感が強い色無地を、付け下げのように幅広いシーンで楽しめるようアレンジを効かせたデザインの開発など、着物の楽しみ方の可能性を提案しています。

「社内に保管されている図案は今も大事にしながらも、時代に合わせて新しいアイディアをプラスαしていくため、彼女には自由な発想で図案を描いてもらっています。今ではPhotoshopやIllustratorといったデジタルで起こす図案が主流ではありますが、あえて私たちは日本画の筆先のタッチや流れを尊重し、そこに生じた歪みも味わいとして捉え、紋様に表しています。斬新なデザインでありながらも、お客様に『伊と幸』らしさを感じていただけるのは、きっと根底に日本画の精神が宿っているからだと思います」。

女性の社長だからできる
着心地に対する率直意見

京都織物卸商業組合の理事も務める北川社長。約100社の加盟商社がある中で、唯一の女性理事だといいます。
「呉服業界はまだまだ男性が中心の社会であって、『伊と幸』もまた、男性管理職の力によって大きく支えられています。そういった中で、私が女性だからこそ貢献できるのが、実際に着物を着て、その感覚を率直に伝えられるということです。例えば、『この生地、歩くとフワフワする』『落ち感があるから、単衣でもいけそう』『打込みが甘いのでは?』など、現場にフィードバックしています。お客様に『さすが、伊と幸』と、ご納得いただける商品をお届けするために、体を張って試着しています」(笑)。

伊と幸の生地

絹の気品をインテリアで伝える
新たな産業技術との融合で伝統を継承

和装市場が縮小傾向にある中、絹織物をインテリアとして活用する事業を立ち上げ、絹と合わせガラスの技術を融合させた内装材「絹ガラス」を開発した「伊と幸」。さらに、軽量な樹脂製の「絹障子」「絹パネル」を生み出すなど、職人による伝承の技と現代技術との共同開発で、絹織物の新たな可能性を見出しています。

伊と幸のインテリア事業。絹ガラス、絹障子、絹パネルのショールーム。

「私たちが守ろうとしている絹織物を和装だけではなく、空間を装うインテリア資材として転用することで、世界のさまざまな方に日本の伝統美を伝えていきたいと思っています。着物をお召にならない方にも、最高品質の日本の絹を用いたインテリアを通して、日本人としての誇りを感じていただける機会になることを願っています」。

絹を軸足に新たな産業技術と融合し、多様な応用製品を展開している「伊と幸」。日本が誇る養蚕文化や絹の気品を次世代へ繋ぐため、そして世界に伝えるため、「伊と幸」の果敢な挑戦は続きます。

国産絹・松岡姫を原料にした伊と幸の白生地


関連記事:「日本の染め・織り事典/丹後ちりめん(京都)」

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伊と幸
京都府京都市中京区御池通室町東入龍池町448−2
WEBサイトはこちら>>
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