伝統工芸探訪 第7回『京友禅(型友禅)』

産地/京都府

京都の型友禅の吉江染工場の代表

細かな描線と精緻な型の重なりで魅せる
型友禅ならでは多彩な紋様美

多色で優美なデザインが特徴の京友禅。京友禅の技法は、手描き染めと型染めがあり、明治初期、手描き友禅の名匠であった広瀬治助が、型紙を用いて友禅模様を染める「写し友禅染め」(現在の「型友禅」)を考案したと伝えられています。絵羽模様の場合、1枚の着物に数百枚もの型紙が用いられることもある型友禅は、時に陰影を演出するぼかしの技法やアクセントを生み出す蝋纈染めの技法なども施され、熟練の技が求められます。

京都の型友禅の吉江染工場の小紋

今回お伺いしたのは、型染めを中心とした作品を生み出されている京友禅の染工房「吉江染工場」。三代目の吉江康二さんは、京友禅型染部門の伝統工芸士で、自ら考案したデザインの着物は、多くの品評会で高い評価を得られています。美しく、匠な染め技術は、皇室に献上されるほど確かなもの。しかし、「吉江染工場」は小売店やメーカーから依頼を受けてつくっているため、品評会以外の表舞台で、その名が世に出ることはほとんどありません。まさに影の立役者として、着物文化を支え続けていらっしゃいます。

品評会で多くの受賞作を生み出す
型染め専門工房ならではの匠の技

京都の型友禅の吉江染工場の型ストック

創業からの圧巻の数の型が保管されている倉庫。

「吉江染工場」の創業は1929年。先々代は福井県のご出身で、職人として京都で修行されたことがきっかけで、型染め専門の工房を興しました。常に新しい型を作り続け、文様の種類は約3万点にのぼるとか。中でも「吉江染工場」が特徴とするのが、シャープなラインをもつ型です。吉江さんは型染めの魅力について、「手描きでは不可能な表現を可能にする」と言います。

「例えば、江戸小紋のように込み入った柄を手描きで全体に描くというのは不可能に近いです。手で打とうと思えばできないこともないですが、相当な時間と労力がかかります」。

第72回京友禅競技大会・経済産業大臣賞受賞作「波涛」

第72回・京友禅競技大会(2020年)で経済産業大臣賞を受賞した「波涛」は、着物全体に波の水しぶきが躍動的に描かれた、まさしく細くシャープなラインの型の特徴を最大に活かした作品。グレーの濃淡だけで表現された一見シンプルな作品が最高賞を受賞した理由は、四方に繋がる型を駆使した染めの技法にあります。胴体で使用している型は2種類。この2枚が繋がるように作った型は、ひっくり返しても柄が繋がるようにできており、型を知り尽くした吉江さんだからできる高度な型の組み方が評価されました。

「四方送りができる型染めは、他の工房さんでもやられていましたが、非常に難しいので、ほぼ途絶えてしまいました。もともと、私のところは同じ柄が繋がる型や波の柄は得意でしたので、『波涛』ではその技術を応用しています。図案は、昔のものからヒントを得て、型をおこし、1年越しに染めました。一番大変だったのは、ぼかしの加減ですね」。

京都の型友禅の吉江染工場の受賞作

全体的に優しい色合いで柔らかなぼかしを入れ、波の動きには力強さがでるよう、全体の色の調子を見ながら、微修正を加えつつ染め上げていったといいます。そして、波頭のところにだけ貝殻から作られた日本古来の白色顔料「胡粉」を入れて、陽光に煌めく水しぶきを表現。さりげない煌めきに目を奪われます。

熟練の職人の手仕事によって
一貫生産で創られる着物たち

京都の型友禅の吉江染工場での制作風景2

分業が基本の京友禅ですが、「吉江染工場」では一貫して1枚の着物を制作しています。工房内には、10枚の生地を一度に貼ることができる友禅板がついた機械式の回転台が5台並び、職人さん1人が1台を担当。糊置きをされている方、型を置く場所に記しを付ける”星付け”をされている方など、各々の工程における作業に打ち込んでいらっしゃいます。

京都の型友禅の吉江染工場での制作風景5

「20年ほど前までは、蒸しや友禅流し(水洗い)も工場内で行っていましたが、生産量が減少していく中、外注に切り替えました。全盛期には40名の職人がおり、全ての回転台が稼働して一度に同じ着物を10枚つくるなど、効率よく作業していました。今は3名の職人と、時々私自身も現場に入って染めを行っています」。

京都の型友禅の吉江染工場での制作風景3

京都の型友禅の吉江染工場での制作風景1

問屋さんの要望に応えるのが私たちの仕事という吉江さん。そのため、「『うち独自のものは、これです!』と言えるものがなかなかないのですが、得意先に合わせて勉強していく中で、色々な着物や帯がつくれるようになりました」と、吉江さんが楽しそうに見せてくださったのは、バリエーション豊かな型染め友禅作品の数々!

京都の型友禅の吉江染工場の小紋

2度染めして染み込む色の美しさを表現した摺込友禅、型に太い目の網を張り、網越しに染めることでふんわり柔らかい印象に仕上がる紗摺り友禅など、豊富な型紙を駆使し、現代的配色で展開。染め上げられた作品は、正統派なものから遊び心を滲ませるものまで、いずれも「吉江染工場」が誇る卓越した職人技が光ものばかり。

京都を着物のアミューズメントに
吉江さんが描く着物文化の展望

長年培ってきた技術力を応用し、数年前から一般消費者向けに着物の染め替えを行っている「吉江染工場」。受け継がれてきた着物や年齢に合わないと感じ始めた着物など、希望のイメージに合わせて染め替えし、さらに愛着をもって楽しめる1枚に仕上げて下さいます。

京都の型友禅の吉江染工場の染め変え例

「着物に込められた大切な思い出が継承できるよう、私たちの技術でお手伝いしたいと思っています。模様部分の色の変化はもちろん、刺繍や箔加工も対応しています」。

着物に新しい命を吹き込み、多くのお客様の着物ライフに寄り添っている吉江さん。そんな吉江さんが描く着物文化の展望とは?

「京都を着物のアミューズメントにしなければと思うのです。着物は着ているだけで目立ちます。それが恥ずかしいという方もいらっしゃる。でも、京都では恥ずかしさを感じることなく楽しめる街でありたいと。つまり、着物で出かけやすい環境を作らなければ、需要も増えません。式典やパーティだけの装いではなく、普段着として着物を楽しんでいただきたいですね。京都にはぜひ、着物姿でお越しくださいませ」。

関連記事:「日本の染め・織り事典/京友禅(京都府)」

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吉江染工場
京都府京都市下京区七条御所ノ内西町63
TEL 075-313-6475
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