名門をゆく/白瀧呉服店

すべてが揃う着物の百貨店
着物を通して和文化の伝承にも尽力

白瀧呉服店の外観

東京都練馬区北町。かつてこの地域は宿場町として栄え、今も当時の旧跡が残り、歴史を感じることができる町です。今回の「名門をゆく」は、1853年に創業し、この地で長年商いを続け、地元の方々だけではなく、全国から着物の相談が寄せられている白瀧呉服店をご紹介します。

1853年の伝統と歴史を
紡ぐ白瀧呉服店

1853年といえば、アメリカ東インド艦隊の司令官・ペリーが黒船4艘を率いて来航し、日本に開国を要求した歴史的な出来事が起きた年。それから170年。現在は、5代目となる白瀧佐太郎さんが店主を務め、伝統と歴史を今に紡いでいらっしゃいます。堂々たる風格で佇む、老舗の呉服店。庭池や茶室を備えた約1万平方メートルの店舗は、都内で最大規模の広さをもち、黒留袖や色留袖、訪問着から紬まで多彩な品揃えを誇ります。

白瀧呉服店の2階イベントスペース

もともとは上野界隈で創業した白瀧呉服店。当時は木綿や布団など太物と呼ばれる商いを中心に行なっていたお店でしたが、東京練馬区北町へ移転。かつてこの地域は、川越城と江戸城を結ぶ川越街道の宿場町だったことから、白瀧呉服店の商売も大変繁盛していたそうです。

白瀧呉服店の庭園

絹中心の呉服店となったのは、4代目の時、つまり現店主のお父様の時代から。実は、今では一般的になった成人式の自社スタジオでの前撮りは白瀧呉服店が発祥という説があるとか。呉服店でありながら写真館を併設したことが話題となり、全国の呉服屋がそのノウハウを学びに見学に来ていたそうです。

時代に合わせた新たな取り組みを行う精神は5代目にも受け継がれ、「和文化の発信基地でありたい」という想いから、一流の噺家や能楽師を招いた落語や能などが鑑賞できる「白瀧文化祭」を立ち上げました。きっかけは、近所に住むお客様から、「着物を着ていく場所がない」という相談を受けたこと。そこで、店内にお酒を提供する場所を設け、近所の方々が着物姿で楽しめる機会と場を創出しました。そこからさまざまな縁が広がり、和の文化イベントに発展。白瀧さんがこだわったのは、それぞれの世界の第一線で活躍するトップクラスの方々を演者としてお招きすることでした。鑑賞する方の興味や関心を深め、心を掴むには、相応の技術と経験が必要です。そして、自社で企画・運営するからこそ、白瀧呉服店の名に恥じないクオリティの人選を大切にされています。

白瀧呉服店のイベントスペース

異業種からの転職
見守ってくれたお客様に感謝

白瀧さんは、建築系の専門学校を卒業後、街をデザインするランドスケープのデザイナーとして活躍した異色の経歴をもつ5代目です。当時、家業を継ぐ気は全くなかったそう。しかし、時代とともに変わりゆく日本の風景から、和の文化もこのままでは衰退していくと感じ、呉服屋の家に生まれたからこそできる、和文化を継承する取り組みを行うため、30歳のときに退職を決意。その時の気持ちについて、「異業種にいましたが、何かを“デザインする”という点では、単にハードかソフトかの違い。ある意味、いいチャンスだと思いました」。

まったく修行もせず、いきなり売り出しに出されたという白瀧さん。しかも、当時は着物に関する知識はゼロ。着物と浴衣の違いも分からず、日々学びの連続だったといいます。
「当然、お客様のほうが着物に関する知識の量は多いので、お客様との会話から多くのことを学ばせていただきましたね」。

白瀧呉服店の店主・白瀧佐太郎さん

お客様が奮闘する白瀧さんを静かに見守っていたのは、白瀧呉服店への長年の信頼があるから。それを痛感したという白瀧さんは、お客様が自信をもって周囲に推薦できる店にならなければと、「とにかく信頼をいただくこと」に注力し、一人ひとりの接客を大切にしてきました。それにより、「大切な着物の相談をするなら白瀧呉服店」という先代からの確かな評判を受け継ぎ、口コミだけで全国から問い合わせがくるほど認知が拡大。遠く九州から着物を持って来店されるお客様もいらっしゃるそうです。

白瀧さんが商いのビジョンとしているのが、「ディズニーランド化計画」というお客様の記憶に残る商売をすること。ディズニーランドは一歩足を踏み入れた瞬間から、どこを見ても楽しかったという思い出が残る一大テーマパーク。白瀧呉服店もまた、お客様の思い出に残る楽しい空間であり続けるにはどうするべきか、何をすべきか、それを商いの軸に据え、常に意識をして行動しているといいます。

工芸品からハイブリッドな着物まで
すべてが揃う”着物の百貨店”

「お客様に楽しんでいただくことがすべて」と話す白瀧さん。それを感じさせるのが、作家ものはもちろん、日本全国のあらゆる伝統的工芸品に登録されている染めや織りの作品が揃う圧倒的な品揃えにあります。
「『うちはこれが得意です』と言ってしまうのはエゴでもありますし、色がついてしまうので、あえて得意をなくしています。“着物好きの方が安心できる場所”というのが、私たちのコンセプトですので、裾野を広げ、白瀧呉服店に来れば必ず正解があると思っていただけるよう、すべてが揃っていると言い切れるほど、品揃えには自信があります」。

白瀧呉服店には、代々継承されている言葉に「勉強する世の中」があるといいます。
「呉服店は、お客様や作家さん、メーカーとの信頼関係があってこその商売です。例えば、産地から購入したものは、産地の方の意向に寄り添い、そしてお客様には少しでも安い価格でお届けしたいという想いから、適正な価格設定で販売しています。中には産地が希望する価格の2倍、3倍の値をつけて販売しているお店もあるようで、心を痛めている作り手の方もいらっしゃいます。そういった現状から、私たちは産地とお客様からいただく信頼こそ、着物文化を継承していくために大切だと考え、嘘のない商いに努めています」。

さらに、お客様への着物のすすめ方にも白瀧さんならではの流儀が。
「伝統の技法だから、有名な作家だからおすすめするというのは違うと思っていて、何よりお客様が気に入ったものが正解なのです。小紋でも、機械で染めようと、手で染めようと、それぞれの良さがあります。職人の手仕事による味わいという魅力、機械であれば安く着物を楽しめるという魅力があります。お客様が重視するポイントは何か、その望みを汲み取り、ご提案を差し上げるのが私たちプロの仕事だと思っています」。

お客様には、商品にたくさん触れていただき、値札もしっかり見ていただくという白瀧さん。
「年に2回、大きな販売会を行なっています。重要無形文化財の作品もたくさん置いていますが、『自由にどんどん触ってください』というのが私たちのスタンスです。大事なのは、本物を知り、適正価格を知っていただくこと。それはお客様の知識となり、他のお店でお買い物をされるときの基準にもなります。接客も圧をかけないよう、基本的に放置です(笑)。実際、それが心地いいとおっしゃるお客様が多いですね。もちろん、相談を希望される方には喜んで対応させていただきますが、基本、お客様の様子を見守りながら、私たちは必要に応じてサポートをさせていただくという姿勢です」。

棋士の着付けを担当
将棋界と白瀧呉服店

白瀧呉服店は、棋士の着付けを担当していることでも知られています。きっかけは、白瀧さんのお父様が大の将棋好きで、将棋会館に通っていたこと。呉服店の店主であると知れ渡り、いつしか棋士の着付けを担当するようになったといいます。棋士が着物を装うのは、優勝者に称号が与えられる8大タイトル戦に挑む時。白瀧さんは、棋士が晴れの舞台で実力を存分に発揮できる着付け方を研究し、着付けの手ほどきされているそうです。
「棋士の方々の特徴をとらえて、結び方や結ぶ位置、締める箇所の減らし方などをアドバイスさせていただいています。みなさん、おっしゃるのが、長時間の対局にはスーツより着物のほうが楽だということ。袴だとあぐらをかいたり、姿勢を崩しても様になります」。

藤井聡太棋士や女性棋士の活躍で、注目が集まっている将棋の世界。棋士の和装姿を多くの方の目にとまることで、若い世代に着物文化への興味や関心が広がっていくと嬉しいと、白瀧さんは話します。

心から満足できる着物選び
必要なのはお客様の達成感と納得感

年間200名の成人式を美しく彩っている白瀧呉服店の2階には、70畳の広さをもつ振袖専門フロアがあり、日本各地のメーカーや作家ものはもちろん、レアな伝統的工芸品の振袖も豊富に揃えています。
「振袖選びをきっかけに、結婚式やおめでたい席で着用する着物を選びにいらっしゃるお客様が多いです。ご結婚後、お子様が生まれたら七五三でいらして、成長されたら今度は振袖というように、2世代、3世代でご利用いただいているのはありがたいことです。

お婆様やお母様の世代から「私のときはなかったのに、今はこんなことまでしてくれるの?」とおっしゃっていただけるサービスを心がけているという白瀧さん。振袖の案内で大切にしていることは、とにかくたくさん試着してもらうこと。平均、20〜30枚の振袖を合わせていただくといいます。
「好みをお伺いし、こちらで検討をつけて候補を絞ってしまっては、楽しい思い出にはなりません。『自分で決めた』という達成感、納得感を感じていただくことが重要です。着物を着慣れていないと、一枚着ただけでテンションが上がって、良く見えることがあります。それは、振袖だけではなく、訪問着でも小紋でも、お客様の想像を超えて、お似合いになるものを提案するのが私たちの仕事です。心から満足いただけるものと出会うことにより、自信をもって装うことができます」。

白瀧呉服店が掲げるディズニーランド化計画。それは、常にお客様ファーストで、着物選びが楽しい記憶となるよう、品揃えとサービスのクオリティを高める努力を重ねること。ここで過ごした時間が楽しかった、また行きたいと思われる店であるために、白瀧さんの挑戦は続きます。

「白瀧呉服店」のこちらの記事もチェック>>

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白瀧呉服店
東京都練馬区北町8-37-11
03-3931-5601(代表)
WEBサイトはこちら>>
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