名門をゆく『京ごふく ゑり善』

日本の美意識を半襟から伝えてきた
”正しい商い”を追求する老舗呉服店

京都で430年もの歴史をもつ老舗呉服店「ゑり善」。その創業は、本能寺の変から2年後にあたる1584年にまで遡ります。現在は、京都、東京、名古屋に店舗をもち、「ゑり善好み」と呼ばれる、京友禅を中心とした伝統美が溢れる優美で品格のある着物が揃えられています。今回は、多くの着物愛好家に支持されている名店「ゑり善」の歴史と魅力について、代表取締役社長の亀井彬さんにお話をお伺いしました。

創業1584年の名門
半襟専門店から発展

「ゑり善」の屋号は、襟の“ゑり”と創業者・山崎善助氏の“善”に由来しています。京染屋として創業したのち、半襟や和装小物を扱う専門店として発展。明治時代には、著名人も訪れていたようで、夏目漱石の「漱石日記」や幸田露伴の「辻浄瑠璃」にも登場しています。1909年発行の「京都大観」には広告を出していた記録も残っています。

老舗呉服店「ゑり善」の広告

明治時代から大正にかけて、半襟で魅せる着物の着こなしが主流だったそう。そのため、半襟づくりを専門にする腕利きの職人や小売店も数多く存在していたといいます。首元を美しく彩る半襟ですが、人の目に触れる部分は、ほんのわずか。しかし、当時は、その限られた世界にこそ贅を尽くすのが着物人にとって最大の美的価値であり、絞り、染め、刺繍など様々な高度な技法が施されていました。高級品の着物を何枚も揃えることはできないけれど、襟くらいは高級なもので楽しみたいという志向があったのではないかと、亀井さん。
ゑり善所蔵の半襟コレクション集には、戦前につくられた意匠を凝らした半襟が豊富に掲載され、写真からでも伝わる繊細な刺繍の立体感など、個性的で華やかな趣きを感じます。

老舗呉服店「ゑり善」の半襟 へび
老舗呉服店「ゑり善」の半襟

見えないところに贅を尽くす
日本人特有の美意識

亀井さんが「創業の根幹として大事にしている言葉」として、次のようなお話をくださいました。
「当時、店主と懇意にさせていただいていた俳人で随筆家でもある河東碧梧桐さんが書いてくださった書があるのですが、そこには『半襟は衣裳より費を惜しまず掛けしぶらず』とあります。つまり、半襟には着物よりもお金を惜しまず、さらに仕舞い込むのではなく、たくさん使って楽しみなさいと伝えています。消耗品である半襟に、費を惜しまずにこだわるという精神にこそ、日本人特有の美意識であると感じています」。
その理由について、「洋服はトルソーに着せて正面を見せますが、着物は衣紋掛けにかけて背中を見せます。着物も帯も主となる柄は自分では見えませんが、相手を楽しませるものとして、おもてなしの心を感じさせます。半襟も同じで、自分で見ることはできませんが、相手の視線が一番届く場所です。そこに個性や遊び心をもたせるのは、昔から大事にしていた日本人の価値観ではないかと思っています」。

老舗呉服店「ゑり善」の2階

ゑり善の企業理念
「正商」への想い

半襟の専門店として繁栄していた「ゑり善」でしたが、太平洋戦争により商いができない厳しい時期もありました。しかし、1947年に着物に対する同じ想いをもった同志6人が集まり、株式会社を設立して再開。「着て楽しんでいただくのは小売の醍醐味」と、礼装だけでなく、洒落ものも扱い、6人それぞれの個性を活かし、様々なお客様の幅広いニーズにこたえるべく、丁寧な提案を行ってきました。
しかし、世の中には粗悪品が出回ることもあり、それを憂いた亀井さんの御祖父様が、いかに時代が変化しようとも、常にお客様に寄り添った、きちんとした商いを行っていくとして『正商(せいしょう)』という企業理念を掲げられました。
「『できない』『わからない』『みつからない』を解決するのが企業の役割と言われていますが、ありがたいことに、私どもの業界にはそれがたくさんあります。つまり、お着物を楽しまれたいお客様のご相談やご要望を一緒に解決していくのが私たちの使命だと思っています」。

ゑり善 亀井彬社長

一過性ではなく継続的に
着物を楽しんでいただくために

全国的に呉服店が減少している昨今、小売店は販売するだけではなく、気軽に立ち寄り、相談できるパートナー的な役割を担うことが大切だという亀井さん。着物が一過性ではなく、いかに日常に取り入れ、継続的に楽しんでもらえるか、その提案力が必要だといいます。
「小売店の良さとは、お客様にパーソナルな提案ができる点にあります。TPOに合わせ、お手持ちの着物の活かし方、コーディネートの仕方のお手伝いができるのは、やはり人の力です。時代の流れから、あらゆる業界で買い手がすべての責任を負わされているように感じます。しかし、ご提案させていただいたからには、私たちもお客様と一緒に、お買い求めいただいた商品の責任を持ち続けることに、小売店の存在意義があると思っています。いかに長いお付き合いをさせていただくか。『ゑり善』を贔屓にしてくださるお客様と運命共同体のような存在になれたら嬉しいですね」。

お客様の喜びを突き詰めて考える
それが商いの本質であり原点

亀井さんは2021年9月に代表取締役に就かれた若きリーダー。コロナ禍で着物業界が一層厳しくなった今だからこそ、新しい世代の発想力、行動力は不可欠といえます。亀井さんも業界の発展のために熱い想いをもつお一人。そんな亀井さんが今後の展望のキーワードとして挙げられたのは「コミュニティ」でした。
「着物好きのコミュニティを広げていくため、呉服業界全体が『着物を纏う方を増やしていく』という大義のもと、ひとつになるべきです。今の時代、一社だけの発展では成り立ちません。呉服店はもちろん、古着、レンタル、オンラインなど、販売チャンネルの間口は昔よりも広くなりました。その広さを大切に捉えながらも、『ゑり善』としての立ち位置を明確にし、自分たちにできることに注力する。それはやはり、人対人。リアルの場での、1点ずつの商いです。物があるから販売するのではなく、何に困っていらっしゃるのか、何をすれば喜んでいただけるのかを突き詰めて考えていく。それが商いの本質であり、原点だと思っています。このような役割を先代たちの想いとともに、大切にしていきたいですね」。

老舗呉服店「ゑり善」のディスプレイ

老舗呉服店「ゑり善」のオリジナル帯

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京ごふく ゑり善 京都本店
京都府京都市下京区四条河原町御旅町49
075-221-1618
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