着物姿が映える日本各地のとっておきの場所をご紹介する道中記。第3回は独特の節と生紬が魅力のお着物「しょうざん」を制作する工房も有する「しょうざんリゾート」内にある広大な庭園を訪ねました。
しょうざんの一珍染で庭園を歩く
京都の市街地から北部に位置する洛北エリア。雄大な鷹峯三山を借景にした、この地の一画にあるのが「しょうざん庭園」です。京都西陣生まれの故・松山政雄氏による「芸術を愛する心は美しい環境から生まれる」という信念のもと、庭園を整備、日本建築を移築し公開したのがはじまりといわれています。お着物ファンならご存じ「しょうざん生紬」のお着物は、この土地で創られていることから、しょうざんの「一珍染」のお着物で3万5千坪という広大な園庭を訪ねてみました。
「一珍染」とは、桃山時代から伝わる染色技法です。ひび割れを起こしやすい特性をもっている小麦粉を主原料とした防染糊「一珍糊(いっちんのり)」を用い、糊が乾いたら職人が手作業でひび割れを入れていきます。そこに染料を加えると「氷割れ」とよばれる独特のデザインが生まれます。宮崎友禅斎はその一珍糊に着眼し、これに工夫を加えた防染糊「友禅糊」を作りだし日本全国に広めていきました。その後、友禅染が主流になったことで、一珍糊は姿を消したといわれています。
麓の谷を流れる紙屋川は、王朝時代、天皇の論旨に用いる紙を漉いたといわれる清流であり、敷地内には豊臣秀吉によって作られた国史跡「御土居」の遺構もある歴史ある土地です。江戸時代初期には、書や陶芸、茶人としても知られる芸術家・本阿弥光悦が徳川家康からこの地を与えられ、清らかな空気と水、静寂の地で芸術家たちを集めて「鷹ヶ峰芸術村」を開き移り住んだといわれています。
樹齢450年という3000本の北山杉の林は圧巻で、梅や椿、楓、紅葉などの樹木から四季折々の日本の自然美を愛でることができます。
京都の風情を凝縮した庭園は、雄大な自然と歴史を一身に感じられる貴重な洛北の秘園といえます。
こちらは実際に酒樽として使用されたものを移築し茶室にした「酒樽茶室」。西陣の豪商の山荘にあったのを移築したもの。このような茶室や迎賓館、屋敷が点在しています。
庭園は大きな池を中心に、水の流れを感じながら園内に散歩道が設けられた「池泉回遊式庭園」になっていて、日本の粋を感じながら、そぞろ歩くことができます。
桃山時代の染色技法のひとつといわれる「一珍染」のお着物で、しょうざん庭園を歩くひととき。のびのびとパワフルで、エネルギーに満ちた文様が、北山杉の雄大さと調和した散策でした。