世界に誇る美の逸品 vol.6『西陣まいづる』【京都】

誠実なものづくりへの姿勢が
気品溢れる帯を生み出す

西陣織の名門「西陣まいづる」は、古典と現代を織り交ぜた気品ある帯で知られています。伝統技法と革新を融合させた意匠は、着物愛好家の心を捉え続けています。5代目・舞鶴政之氏を訪ね、未来へ向けたものづくりの姿勢を探ります。

西陣まいづるの古典柄とモダンデザインが融合した帯(京都・西陣まいづる)

◆ この記事でわかること
・「西陣まいづる」の歴史と伝統へのこだわり
・古典柄とモダンデザインの融合による帯の特徴
・「ゴブラン紹巴」「耀虹螺鈿」など代表的な帯シリーズ
・自社工房の設立と若手職人の育成への取り組み

緻密で華やかな図案に繊細な箔糸づかい。フォーマルシーンにふさわしい西陣織帯の代表格ともいえるのが「西陣まいづる」です。優美で気品に溢れ、絵画のような意匠と奥深い織味から名門織元の風格が漂います。着物愛好家の憧れ「西陣まいづる」。5代目社長・舞鶴政之さんにお話しを伺うと、西陣織文化を守り継ぐための強い覚悟と、帯づくりに真正面から取り組むひたむきな姿がありました。

王道の古典柄やモダンな柄に宿る
「西陣まいづる」らしさ

「西陣まいづる」の特徴といえば、その洗練された色柄で高貴な装いを叶えてくれるセンスと技術力の高さ。例えば、透明感ある澄んだカラーリングで織り出された帯は、定番の古典柄を解釈し直し、風雅な趣の中にモダンさを感じさせるデザインに。また、伝統文様の青海波においても、デザインの一部が菊になっていたり、唐草が描かれていたり、細部に凝り青海波を現代的に発展させています。一方で、水の流れを題材にした『澪華シリーズ』などは、シンプルでありながらシャープな線やシックな色使いが鮮烈な印象を残します。王道古典柄からシンプルモダンな柄まで、幅広いシーンで装いにエレガンスを添えてくれるのが「西陣まいづる」が支持され、愛用される理由といえます。


「図案と配色には力を入れています。多色のものは色を使いすぎて検品するのが大変なものもあります。シンプルなデザインも配色を変えるだけでガラッとイメージが変わるのが面白いですね」と、舞鶴さん。「工房の向かいに染め屋さんがあるのも大きいです。こまめに確認ができるので、理想の色をとことん追求できます」。

西陣まいづるの5代目社長・舞鶴政之さんのインタビュー

西陣は工程の一つひとつが分業化されており、それぞれ専門の工房が協力しあって、街全体でものづくりをしています。だからこそ、工房との連携は良品な帯を生み出す大事な鍵。自社工房と変わらない距離に染めの協力工房があることは、大きなメリットであり、細やかなものづくりを可能にしています。

高い技術力を活かした帯の芸術品

圧巻の意匠はもちろんのこと、何よりの凄みは、こうした意匠を形にできる技術力です。それを体現しているのが、『ゴブラン紹巴』や『耀虹螺鈿』といった、こだわりの糸と高い技で織りなす「西陣まいづる」を代表するブランドシリーズの織物です。

ゴブラン紹巴織の高密度な織りと複雑な意匠の帯(西陣まいづる)

『ゴブラン紹巴』は、ヨーロッパで愛される「ゴブラン織」と経糸緯糸に強い撚りをかけた糸を使う「紹巴」という技法をミックスさせた織物で、5色の経糸を駆使して高密度に織り上げられています。細やかな紋様の集積から高い織りの技術に圧倒されます。
「ここまでの織物が織れるのは、やはり西陣ならでは。西陣には、世界一の技術があると思います」と、力強く頷く舞鶴さん。

耀虹螺鈿の白蝶貝や孔雀貝の輝きが美しい帯(西陣まいづる)

一方、『耀虹螺鈿』は、白蝶貝と孔雀貝の螺鈿を引箔にして織り込んだもので、絹糸とはまた違う貝の輝きが印象的。これもまた引箔をつくり織る技術があるからこその逸品といえます。

さらに、一般的な絹糸の半分程の太さしかない幻の繭「三眠蚕」を経糸に使った希少性の高い帯や、琴糸を使った帯など、渾身の技が宿る織物が充実。それぞれに個性的な美しさを湛え、愛好家の心を捉えています。

西陣織の未来のため
人々の喜びのために努力する 

「西陣まいづる」の創業は1907年。初代の舞鶴正七さんが奉公先から独立し、「舞鶴正七商店」を立ち上げたのがはじまりです。現社長の政之さんが5代目社長に就任したのは、2018年のこと。和装が苦戦を強いられ続ける時代に、家業を継承するにあたり、織物業界のありように並々ならぬ危機感を持って帯づくりに挑まれています。本社の向かいに自社工房を建てたのもその現れ。実は、それまで「西陣まいづる」では、代々協力工房に機械織を外注してきたといいます。

「自社工房を建てたきっかけは、ある夏にエアコンのない機場で織手さんが熱中症で倒れられたことでした。もともと織現場がご高齢の織り手さんばかりであることに危機意識を抱いていましたので、思い切って自社工場を立ち上げたのです。それと同時に、世代交代を見据え、若い方の雇用を積極的にしています」。実際に工房を訪問すると、空調が効いた整った機場で、若い職人さんたちが活き活きと織りに励んでいらっしゃいました。

西陣まいづるの自社工房(京都・西陣まいづる)

また、舞鶴さんは現在の着物業界の販売方法などにも危機感を抱かれ、お客様のニーズにあわない販売方法を続けていると着物離れは進む一方だと憂慮。
「お客様のニーズがあってこそのものづくりです。織り手さんや関連工房の職人さん、仕入れ先など周りのおかげで商いができていることに感謝しながら、お客様に喜んでいただける帯づくりの努力を続けることが大事だと考えています」。

関わる全ての人を大切に、まっすぐに良質の帯をつくり届ける。こうした姿勢が周りの人々の心を動かし、よりよいデザイン、よりよい糸、よりよい技術が「西陣まいづる」を支え、100年以上もの間、妥協なきものづくりに勤しんでいらっしゃいます。
「結局、大切なのは何のために商売をするのかということ。私たちは美を追求し、人の心を豊かにするために帯をつくっています」。

「西陣まいづる」の帯に宿る品格は、真摯に誠実に創作に取り組んできた老舗工房の精神そのものの品格といえるでしょう。


 株式会社 西陣まいづる
 京都府京都市上京区五辻通大宮西入五辻町39 
 TEL 075-441-0001
 WEBサイトはこちら>>

Masterpieces of Timeless Japanese Beauty| Vol.6: Nishijin Maizuru


取材・文/白須美紀

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